第3回県産三線ブランド化委員会 議事録要旨

1.委員発言(発言順、敬称略)

 

 

渡慶次 道政
 皆さんこんにちは。年度末の忙しい時期にお集まりいただき、大変ありがとうございます。今日は今年度の締めくくりとなります。三線の伝統的工芸品指定に向けて、組合としても一生懸命取り組んでいる最中でございます。先生方の活発な意見を参考にさせていただきたいと思います。それでは開会いたします。よろしくお願いします。

司会
 早速ですが、事務局長の仲嶺がワーキンググループの調査報告をいたします。

仲嶺 幹
 始めに、三線製作所のアンケート調査の報告をしたい。県内の三線製作店、または販売店の実数を把握することで、県産三線の伝統と未来について意識を共有し、三線業界の現状と課題の認識を図ることを目的として調査を行った。まず、県内の三線製作店の実数を把握する為、販売店を含む三線店約120件の内、棹の製作を行っていると考えられる三線製作店約40件を対象とし、組合に加盟する三線職人が直接訪問、①実際に棹の製作を行っているか、②沖縄県産三線の年間製作本数について調査した。
 結果、①に関しては40件中29件が棹の製作店に該当。製作にあたる職人の年齢分布は、60代以上の職人が14件と全体の約半数を占めている。40代の製作店10件のうち、代継ぎをした二代目が7件。その他3件は、三線の組み立て販売店への移行や転職を考えているという現状であった。さらに、20代、30代の職人がいる店は1件のみで、総じて後継者育成が課題であることが確認できた。②に関しては、29件中25件から回答を得た。回答した製作店全体のひと月あたりの三線製作本数の合計が約300挺であった。よって、年間およそ3,600挺以上の県産三線が製作されていると推測される。
 離島の調査結果については、与那国島を除いた先島諸島全体で10件の三線店が確認された(久米島が1件。宮古島3件。石垣・西表島計6件)。離島では沖縄本島と同様の経営手法は難しく、観光客を対象とした三線教室や、琉装着付けと記念写真サービス等との兼業が多くみられた。
 最後に、演奏団体との取り組みについて報告する。各三線演奏団体や公演情報、県内・外の三線教室の紹介を三線組合のホームページ上で展開し、三線愛好家に対して積極的に情報を発信していきたい。また、各団体に所属する教師・師範の県外三線教室への派遣や、三線の展示会などのPR活動、各演奏団体・新商品開発など、県産三線の普及・啓発に努めていきたい。

司会
 続きまして、琉球黒檀の確保に関して谷口委員からご報告があります。谷口委員よろしくお願いいたします。

谷口 真吾
 ここに1月から2月の間に行われた沖縄県農林水産部の森林企画班による離島を除いた沖縄島における琉球黒檀の造林地域の調査データがある。
 沖縄島本島全域だけで、琉球黒檀の栽培面積は7.48haである。沖縄島の中南部では5.47haで、1972年以降に戦後の沖縄復興の一環で公的資金が投入され、南城市佐敷と西原町が琉球黒檀の大規模植栽地となった為、これらの地域が栽培面積の大部分を占めている。ただし、中南部の植栽地は土壌がアルカリで、肥料や養分の保持ができないという欠点もある。北部地域の琉球黒檀の栽培面積は2.01haとなっており、主に国頭村の県営林が占めている。また、宮古・八重山における琉球黒檀の栽培面積に関しては、宮古島市が所有している大野山林、八重山では石垣島と西表島で黒檀造林が行われているのを確認している。しかし、造林面積は極めて小さく、0.1haとか0.01ha程度である。沖縄島本島、離島ともに、今後当該市町村の関係者や地権者の許可を得て現地調査が必要である。
 林野庁は現在、成長が早く、成長量が高い樹種を優先して造林樹種として認可するため、琉球黒檀は認定されておらず、その造林に公的資金が投入されていない。また、市町村レベルでは費用の捻出が難しく、県レベルでなければ造林できないという現状が明らかとなっている。
 今後の検討課題を3つ提案したい。1つ目は沖縄県農林水産部森林管理課の支部担当を当委員会のメンバーに加え、先に述べた調査を共に実施したい。2つ目は先島諸島も含めた、県下の各森林組合に過去の造林地の情報が残っている可能性がある為、森林管理課と共にその調査も進めていきたい。3つ目に、街路樹や公共緑化樹木として植栽された琉球黒檀の場所やサイズ等の情報を集積し、さらに県内の個人住宅や私有地に植えられている黒檀の現存量をこの委員会で集約し、それらを適正な価格で取引できるようなシステムの構築を提案したい。公的な造林事業から街路樹、公共緑化樹木、私有地にある黒檀で相当量の琉球黒檀が確保できると考えられる。
 このような取り組みは、国の伝産指定だけでなく重要無形文化財を目指す場合に、現地で調達した材料を使う必要がある為、琉球黒檀が沖縄県内で調達可能であるという要件を整える上で大事な情報になっていく。現在、黒檀が世界的に枯渇していることは明らかで、生産国の輸出禁止や、盗伐などの違法伐採によって黒檀が沖縄に入らなくなってしまうと、原材料の確保という意味で問題が生じることは明白である。よって、新たな原材料確保を今後の検討課題に追加する必要性を提案したい。」

司会 「続きまして、平田委員から「くるちの杜100年プロジェクト構想・平田レポート」のご報告をいたします。平田委員よろしくお願いします。

平田 大一
 『くるちの杜100年プロジェクトin読谷』は、アーティスト、宮沢和史氏が「三線の棹の原材料となるクルチが、県内でほとんど採取できず、輸入に頼っている」という現状を憂い、育成に100年かかるというクルチの苗を毎年植樹し続ける計画を提案し、それに賛同する有志とともに立ち上げたプロジェクトである。読谷村では元々2008年から2010年の3年間、座喜味城址の裏で植樹祭が行われ、すでに2500本ほどのクルチが植樹されていた。これを継承する形で、読谷村の協力の下、実行委員会を発足し、2108年まで継続発展可能なプロジェクトの確立に向け様々な事業を展開している。
 プロジェクトには「植える」、「歌う」、「学ぶ」という3つの柱がある。まず、「植える」では、植樹祭と育樹祭、そして毎月1回の下草を刈るクリーンアップ活動を通して、クルチの保存に努めている。次に、「歌う」では、「くるちの杜音楽祭」と称した音楽イベントを開催し、普及活動に努めている。最後に、「学ぶ」では、「お出かけくるちの杜講座」や、三線組合と連携したワークショップ、県立芸大での講座等を実施し、活動の継承に努めている。
 また、森林環境科学分野の専門研究者である谷口先生という強力なアドバイザーにも参加していただき、構想が進んでいることは嬉しい限りだ。現在、くるちの杜プロジェクトは読谷村を拠点に展開しているが、先ほどの谷口先生のお話の通り、自然災害や何らかの外的要因で森が消失した場合、材を全て失ってしまう事態になりかねない為、この活動を全県的に展開していく必要性を強く感じる。
 最後に、今後の展望として3つ提案をしたい。1つ目は、空手、エイサー、琉球舞踊等、沖縄文化を通じて沖縄にアイデンティティを感じる方が県外・海外に大勢いる。彼らが沖縄を訪れた際、やちむんの里のような形で訪れることができる場所の1つとして、三線の里を構想している。2つ目は、舞台を活用した普及活動の展開である。舞台を通じて、三線が持っている平和希求の思いや可能性を広めていきたい。最後に、現在ボランティアベースで活動しているくるちの杜プロジェクト事務局の機能を拡充し、三線組合の皆さんや行政の方々と協力して全県的な取り組みへと発展させていきたい。

司会
 平田委員ありがとうございました。続きまして、意見交換とさせていただきます。本日のワーキンググループの報告や、谷口委員、平田委員の報告以外でも自由な意見を頂戴したいと思います。どなたか意見はございませんでしょうか。
 はい、比嘉委員。

比嘉 康春
 先ほどの報告の中で、安価な三線を求めるニーズに応え、海外産の三線を仕入れているとあったが、安価な三線を求める方々とはどういう客層で、比率などの分析はできているか。

仲嶺 幹
 一番安い三線は海外産というのが現状。以前、行政機関・小学校・中学校がまとめて三線を購入した際、一つの三線店に大量の発注が入り、納期や価格の問題でほぼ全て海外産の三線が納品されたようだ。

比嘉 康春
 現状を踏まえると、一般の方々を対象に県産三線の普及・ブランド化を実現するのは厳しいのでは。各音楽団体には何万人という会員が存在し、稽古を積むことで、より良い三線を探し求めるようになる。インターネットでの情報発信に力を入れるより先に、演奏団体に向けたPR活動をすべきではないか。

仲嶺 幹
 組合としても、演奏団体との関わりは重要だと考えている。積極的に情報共有をしていきたい。

大工 哲弘
 先ほどの三線店の調査報告は沖縄県内のみのものだったが、私は奄美訪問時にウチナーのクルチが最上だという認識の演者が多く、奄美ではウチナーのクルチがステータスとしての価値を持っていたと認識している。組合は今後奄美とどのように関わっていくのか。

仲嶺 幹
 現時点では奄美の三線店と演奏団体に関してほぼ情報がない。今後販売規模や販売元、演奏団体等の情報を集め、ブランド化の情報発信ができる体制を検討したい。

谷口 真吾
 私が常々考えているクルチの生育分布について、気候的にうるま市辺りで線引きができると推測しており、私の観察では奄美の黒檀と沖縄エリアのそれは同じ種と思えぬほど違っている。よって、沖縄エリアで生育したクルチをブランド化することは十分可能だし、早く取り組むべきだと考える。

大城 學
 今の黒檀の分布について、フィリピン産のクルチも八重山クルチとは全く異なると言われているが、南の分布いついてはどうか。

谷口 真吾
 台湾やフィリピン辺りでどの程度変化が見られるのかも判明すると興味深い。明確なラインは引けなくても、うるま市の少し北と国頭では明確な違いが出るのではないかと推測している。

比嘉 康春
 クルチが一番の良材であることは間違いないが、県内で調達できるユシ木等の代替材についての定義や材質について評価を整えることが急務ではないか。

仲嶺 幹
 職人の間ではユシ木の芯材は黒檀に引けを取らない良材として認識されている。業界全体で再評価し、ブランド化していけるよう取り組みたい。過去に県の取り組みで圧縮材の技術が導入された経緯があるので、それらの材質に対する評価も検討したい。

宮沢 和史
 二つのプランが必要になると思う。一つは100年も200年も継続して黒檀を育てていく長期のプラン。もう一つは、今生きている私たちの為のプランだ。クルチが最上級の材であることは当然だが、クルチ以外の材で作られた三線のブランド化が必要になってくると思う。材の品質をきちんと評価できる体制を作り、魅力的な三線として周知させていく取り組みだ。品質がしっかりした安価な三線を提供できるような環境ができれば若手の仕事を確保し、後継者不足の問題にも貢献できるのではないか。

仲嶺 幹
 ブランド化事業には、黒檀の確保と、県産三線の普及という二つの目的がある。ブランド化によって低価格帯の需要を喚起することができれば、雇用を生み、技術継承の問題にもつなげていけると考えている。

平田 大一
 皆さんのお話を聞きながら、三線がいろいろなパーツの組み合わせで作られるように、この活動も互いの協力関係が組み合わさることで良い方向に進んでいくと改めて感じた。

大城 學
 琉球黒檀にこだわりすぎると、若手ができる仕事がなくなり、技術の継承が危ぶまれる。黒檀の代わりになる材を有効に使っていける環境になればと強く感じた。

谷口 真吾
 皆さんの発言を受け、黒檀ではなくユシ木の話に触れたい。ユシ木は過去に大規模な造林が行われている。現状で材として利用可能なものが国頭を中心に200haほどあるが、有効な利用法が見つかっていないため、県産三線の普及促進に役立てることとなれば国頭の森林組合も歓迎するのではないか。その他の材としては、チャーギが首里城の柱の再建の為に国有林で造林を行っているが、害虫の被害に遭いうまく育っていない。

大工 哲弘
 谷口教授に確認したいのだが、クルチは植林樹種には指定されないのか。

谷口 真吾
 はい。植栽木としての資金が出ない為、植える人が全額負担しなければならないというのが現状だ。

大工 哲弘
 では、現在のクルチの杜プロジェクトは認められていないということか。

谷口 真吾
 いいえ。これは林野庁の考え方で、植林の実績が少ない為、造林樹種として認められず、公的な資金が投入されないという話だ。

大工 哲弘
 法的な観点で、ということか。

谷口 真吾
 ええ。そうです。

大工 哲弘
 黒檀が難しいのなら、三線の材に適した樹木を国外から取り寄せて植樹しては。実際、沖縄の県下であるデイゴはインド産の樹木で、長い時間を経て愛着のある花として認められている。早めに植樹を開始し、それを材に三線を作っていけば、地元の材を使った三線としてブランド化の助けになると思う。

照喜名 朝一
 戦後は本当に物がなく、色々な方法で三線を作っていた。先輩方からは「沖縄の三線は平和の象徴だから、お前たち若いのが頑張って平和な世の中を作るんだよ」と励まされた。クルチ枯渇の問題は、やはり切りっぱなしではなく、その後に必ず植樹するというモラルを確立する必要を感じた。

知名 定男
 三線のブランド化に対する一つのプランとして、製作者がわかるようにしたり、ロゴなどを貼って識別するようにしたりすることで、購入者のステータスを満足させる方法も案として良いと思う。

園原 謙
 現在博物館では、琉球王国文化遺産集積再興事業を行っており、形だけの復元ではなく、音色を含めてアプローチできないか検討している。県産三線のブランド化を考える上で、形の美しさだけでなく音色についても言及していく必要がある。三線の楽器としての妙は、職人の技術によって生み出されるといった、目に見えない価値を発信することができるのではと考えている。

司会
 ありがとうございました。最後に、今年度の委員会総括と次年度への展望を仲嶺がお話します。

仲嶺 幹
 今年度は委員会の立ち上げから始まり、各種調査を通じて三線がウチナーンチュにとってアイデンティティを感じるものとして認識されていることを再確認できた。県立芸大と連携協定を結び、ブランド化を盛り上げる取り組みを生み出したいと思う。各演奏団体とも情報を共有し、業界全体の気運を高めていきたい。国の伝産の指定要件の整備については、ご参加いただいている先生方のご協力を仰ぎながら進め、次年度の秋口には申請書類にしてまとめる予定だ。次年度も皆様のお力添えを頂きながら課題解決に取り組んでいきたい。