委員発言(発言順、敬称略)
1.国の伝統的工芸品 指定小委員会報告
【日時】2018年(平成30)8月16日(木)13時~
【場所】経済産業省本館17階 第3特別会議室・展示室
【参加者】
伝統的工芸品指定小委員:園原謙(沖縄県立博物館・美術館副参事兼博物館班班長)
沖縄県総合事務局:田畑弘樹・金城直貴(経済産業部 地域経済課)
沖縄県:山城利枝子(ものづくり振興課)
沖縄県三線製作事業協同組合:渡慶次道政(理事長)・仲嶺幹(事務局長)・玉城あゆみ(事務)
山田典子(県産三線普及ブランド化事業コーディネーター)
【報告内容】
・平成30年6月25日付けで経済産業省へ「三線」の国の伝統的工芸品の申請書・参考資料を提出。
・伝統工芸品小委員会への参加(園原委員)
園原 謙
伝統工芸品小委員会にて、既指定との整合性を図るため、木地塗りは人工漆(ウレタン塗装)ではなく、本漆塗りのみを伝統工芸品として指定することが承認された。
三線も本物の漆工芸品としての志向性を高めるべきだという議論になった。
ほかの委員からも三線に沖縄の人々の心が詰まっており、沖縄の人々の心のよりどころになっていると高い評価をいただいた。
仲嶺 幹
正式な決定は近いうちにされる予定。指定された暁には指定振興計画案を国へ提出しなくてはならない。組合として下記の通り提案する。
①後継者の確保および育成ならびに従事者の研修に関する事項。
後継者をどのように育て、また既に職に就いている職人にさらなる専門的な技術をどのように指導していくのかという計画。
複数年かけて人材を育成するため、有識者の助言いただきながら内容を固めていきたい。
②技術・技法の継承及び改善その他品質維持及び改善に関する事項。
100年以上の伝統的な技術が継承していける仕組みをつくり、指導していく。
③原材料の確保及び原材料に関する研究に関する事項。
現在使用している黒檀、ユシギ等の確保、または他の代替材料の研究も振興計画の中でも考えてゆく。
④需要の開拓に関する事項。
販路開拓、または現在売れている地域でもさらに注目されるような商品を開発し、新しい販売方法等を検討。
⑤作業場、その他作業環境の改善に関する事項。
後継者育成のための共同作業場を確保し、大きな機材を共同活用することで作業場の環境改善等も考える。
⑥原材料の共同購入、製品の共同販売。
海外からヘビ皮をまとめて直接輸入する、木の原木等をまとめて購入して共同販売する場所を組合以外でも広げていくことを含めた計画。
⑦品質の表示、消費者の適正な情報の提供に関する事項。
海外産、県産の区別化。国の要件を満たした三線とそうでないものを一般の方々に分かるように表記する義務を設ける。
⑧老齢者である従事者、技術の熟練した従事者、その他の従事者の福利厚生に関する事項。
現在、三線職人組合の組合員は個人経営なので、組織的に福利厚生等を整備する体制を目標に掲げたい。
⑨その他、伝統的工芸品産業の振興を図るための必要な事項。
組合として各団体・業界と連携し三線業界全体の振興を目指す。
谷口 真吾
「②技術・技法の継承及び改善その他品質維持及び改善に関する事項」に関して。
今回伝統的工芸品のシールを貼るにあたり、県産の材で作ったもの・三線組合で作ったものについてはシリアル番号を入れるなど海外産との差別化をはっきりとさせる仕組みづくりも組み込んでいただきたい。
「③原材料の確保及び原材料に関する研究に関する事項。」に関して。
材の比重の軽いものは使わないよう徹底し、明確な基準も設けて頂き、例えば合成木材とか圧縮木材は使わないなどをこの案の中の付帯事項として加えていただきたい。
「⑥原材料の共同購入、製品の共同販売。」に関して。
内地で本漆を作っている場所は最近供給者と連携をとっているので、本漆の供給先も連携先を決めてしまうという事項が入っても良いのではないか。
鈴木 修司
伝統工芸の漆器の世界では本漆とカシューの漆では製造工程と原価が変わりますが、三線の世界ではどのぐらいコストや作業時間に差が出るのか。
漆を塗った三線の棹材をどのように検査していくのか。
仲嶺 幹
本漆を使ったときのコストはウレタンを塗った時間と金額のおおよそ5倍ぐらいになる。
検査基準に関して、漆を塗ったあとに棹の材料をチェックする方法は難しい部分もあるので、塗りに出す前・出したあと等、検査体制を何段階かに分けるべきなのか、抜き打ちチェックが各店舗で行われるような形を設けるのか。職人にも負担にならないような落としどころを考案し、漆の専門家と相談し決めていきたい。
2.県立芸術大学との連携継続報告
2017年度、沖縄県立芸術大学と三線組合にて連携協定を締結した。
デザイン科の院生3名と三線組合オリジナルのクリアファイル、トートバック、缶バッチ、手ぬぐいを製作し現在、組合店舗、組合オンラインショップ、ミュージアムショップゆいむい、札幌わしたショップにて好評販売中である。また、各イベント会場などでも販売を行っており、今後も販路開拓を行っていく。
比嘉 康春
国の伝統的工芸に指定された場合には、さらに新たな取り組みを考えたい。
また漆を塗る職人が非常に少ないという状況があるが、本大学には漆芸コースがあるので三線の漆塗りについても、連携推進会議を通じて調整していきたい。
現在OB公演「歌鎖」では三線の展示、グッズの販売をおこなっているので、こちらも継続的に続けていきたい。
3.演奏家仕様三線の進捗状況
三線組合では、県産三線普及ブランド化事業を実施しており今回、演奏家の皆様と一緒に各演奏家のイメージにあった「演奏家仕様三線」を製作し、現在三線製作業界が抱えている問題である代替え材のブランド化や後継者育成の作業確保等へと繋げていきたいと考えている。
(1)演奏家の型とのコラボの目的
①枯渇する黒檀の代替材(県産)を使った三線のブランド化の推進。
②コラボ三線の製作作業を後継者の仕事として確保。
③三線のセッティングにプロの演奏家のこだわりを反映し、そのこだわりを明確に伝える。
④現在一番多く普及している型である真壁と与那城以外の型の普及を目指す。
(2)原材料について
棹の材料として安定して仕入れることができ、なおかつ木の比重が従来の棹料とあまりにもかけ離れない質の高い県産材料を採用。
(国頭森林組合の助言よりソウシジュを採用予定)
(3)提案モデル
音色が分かりやすいように高音・中音・低音と三つ提案
大工哲弘委員モデル・・・少し張りの強めな伸びのある高音。
宮沢和史委員モデル・・・広く音をカバーできる中音。
知名定男委員モデル・・・低音重視。
大工 哲弘
普及率の低い三線の型を市場に届けたいというコンセプトを受け、同じ大工がついている知念大工にしたいと考えている。
全国でこの三線を弾いて歩き、この三線をどんどんPRしていきたい。
宮沢 和史
初心者の方が手に取りやすい三線、また、民謡、ポップス、いろんなものに応用できるような三線を作りたい。
また、音楽的に人工皮がどう利用できるのかという研究も前倒しにするべきというのが私の意見なので、人工皮と本皮を選べるようにしたい。
私も大工先生と一緒に、全国に持ち歩いて宣伝したい。
比嘉 康春
古典音楽と民謡・ポップスでは好みが違います。
古典音楽の奏者はとくにくるちという材にもこだわります。演奏家モデル作成にあたり、古典の特徴を取り入れた三線の製作も考えていただきたい。
4.くるちの杜について
10月13日(土)に「くるちの杜100年プロジェクトin読谷 10週年スペシャルイベント」が行われた。
くるちの杜の育樹祭・式典では平田大一氏、宮沢和史氏により「くるちの杜100年プロジェクトin読谷」のサントリー地域文化賞受賞の報告が行われ、鳳ホールでは「記念フォーラム」も開催された。
記念フォーラムにはゲストとしてブランド委員である知名定男氏、大工哲弘氏が民謡界代表として参加され、くるちの杜プレゼンには琉球大学教授 谷口真吾氏、三線組合事務局長の仲嶺幹が登壇した。イベントには多くの方が参加され、三線組合も引き続き、くるちの杜実行委員として今後のプロジェクト継続・発展へ向けて協力していきたい。
平田 大一
今年はくるちの杜の活動がハワイにも飛び火し、ハワイ沖縄フェスティバルにてくるちの杜を紹介するコーナーをつくっていただき、現地の県人会の有志の皆さんによる寄付活動も行われた。
10月27日に世界のウチナーンチュの記念イベントが開催されたオハイオ州でも同じように、寄付活動がおこなわれた。
現地の県人会の方々は皆さん必ず家に三線があるが、くるちで三線が作られていることを知らない方が大勢いた。
宮沢 和史
活動拠点の読谷ではスペースがずいぶん埋まりこれ以上植樹できない状況にある。
くるちは植物なので、病害や台風でなくなってしまうことも考えられる。これからどんどんほかの場所にも増やしていくべきという議論が始まっており、具体的に南大東島と、宮古島で話が進んでいる。
大工 哲弘
先日石垣で開催された創造農村ワークショップという文化庁の主催するイベントでくるちの杜の活動を報告したところ、ぜひ八重山でもやりたいという話が出ている。
私の出身の八重山でもぜひ進めたい。
谷口 真吾
琉球黒檀を広めることを目的としてくるちの杜100年プロジェクトに参加している。
くるちは成長が遅いため公的な補助や資金が投入できない樹種ではあるが、サントリー地域文化賞の受賞・その推薦をNHKから受けたことにより、林野庁・内閣府で琉球黒檀の話をする際も現実味を帯びて聞いてもらえるようになっていると思う。
造林樹種として認められれば山原の森林を切った場所でも植栽できるようになるかもしれない。
また沖縄県の道路緑化についても携わっており、そちらでも琉球黒檀を植えることを検討したいと提案ができた。黒檀は硬い材なのでいろいろなことに使えると宣伝もでき、琉球黒檀を増やしたい造林学の立場からしても、サントリー地域文化賞の受賞・沖縄の心である三線が伝統的工芸品に指定は追い風になっていると思う。
平田 大一
くるちの杜の事務局に「うちに樹齢100年に近いくるちがあるがもらわないか」という電話が増えている。
我々としては100年かけてくるちを育てるという目的があるが、樹齢が100年近いくるちを見捨てるのはナンセンスな気もしている。
ただし、これらを移植する費用は大きいし、植樹場所の確保も非常に難しい状況なので、専門的な意見もうかがいながら移植等に取り組めるよう三線組合でも検討していただきたい。
谷口 真吾
このくるちの問合せの件について、どこにどんなものがあるのかというデータベースをつくっておくという事を、この振興策の中にも盛り込めないか。
比嘉 康春
データベース化することは非常に良い。
現在の三線業者が持っているクルチなども調べて、データベース化して把握しておかないと、植樹したくるちが成長するのをただ待っているだけでは今後材の確保は難しいかもしれない。
6.三線のブランディングについて~知的財産権など~
三線組合では三線を商標などの知的財産により保護・活用することで、県産三線のブランド化を図っていきたいと考えている。海外産三線等と差別化しブランド化をはかるためには、当組合に係る知的財産にどのようなものがあり、それらをどう活用していくことが効果的かを学ぶため、現在、発明協会の支援事業で勉強会を開催している。
三線組合の今後の目標
・ロゴマークの商標登録と共に、三線にブランド名を付けることで、職人(県産)三線と海外産三線を識別しやすくする。
・職人育成三線(みんなの三線等)を製作する背景を消費者へ伝える。
・若手の仕事不足を改善し、伝統的技術・技法を継承していくためにも、低価格帯の三線(みんなの三線)や演奏家仕様三線、また企業のロゴマークをいれたデザイン三線を製作し、若手の育成へと繋げていくことを目的とすることを消費者へ伝える。
鈴木 修司
ブランディングで一番重要なポイントは覚えやすい・印象に残る・他社との差別化、さらに外部からの印象の統一という点である。
また、品質を維持することも大切だが、工芸品の価値を高めることも必要。
工芸品の価値とは私は文化的価値と産業的価値があるのではないかと思う。
沖縄の染め織物業界の後継者育成を例に挙げると、染め織物だけでは食べていけない、収入が上がらない、安定しない、そのために後継者が育たないというのが最大の問題点である。
また、沖縄の工芸品は他の産地とは異なり、売れているのに働く人が減っているという状況がある。
後継者が生活を維持できない現状を解決しないと後継者が育つことは難しい。
三線について、文化的価値は伝統的工芸品の指定を受ければ手堅く高まってゆくとは思うが、私が危惧しているのは、産業的な価値をどのように高め、後継者が生活できる環境を作るのかという点である。
ブランディングの例として、ゆいまーる沖縄では4つのブランドカテゴライズを作り、社員全員で共有している。
ブランドのテーマやルールを共有し管理することでブランドの信頼を守ることができる。
ブランドを徹底して管理することで、ブランドの価値を向上させ、産業的価値を上げることで職人の収入向上にもつなげることが重要。
後継者育成と合わせて文化的価値、産業的価値、両方を高める活動に本気で取り組むべきではないか。
7.琉球三線楽器保存・育成会30周年記念展覧会関連シンポジウム案
日時: 2019年3月2日(土)午後2~5時
場所: 沖縄県立博物館・美術館 3階 講堂
仮題名 : 県産三線普及ブランド化事業報告 ~「三線の伝統と未来」~
【1部】三線ブランド化の取り組みについて (40分)
【2部】専門委員のご意見・クロストーク (60分) (県産三線普及ブランド化委員)
【3部】演奏家による実演・まとめ(60分)
オブサーバー発言(発言順、敬称略)
◆NECソリューションイノベータ(株)沖縄支社 西田
弊社で開発しているICチップを、組合で作っているナンバリングシールに置き換えて、デザイン三線や演奏者仕様モデルの三線に貼り付けることができる。
ICチップには特設サイトに自動でリンクしてYouTubeでビデオが見られるようにしたり、製品情報を登録することもでき、また、修理履歴の情報も組み込むことができるので、メンテナンスにも役立つのではないかと考えている。
さらに特設サイトに飛ぶことにより演奏家のライブ特典が当たるなど、購入者にメリットのある情報を組み込むことで、三線購入の販売促進につながるのではないか。
◆沖縄総合事務局 知念
伝統的工芸品指定に関して、経済産業省の審議会で適当であるということの答申が出ており、あとは『官報』に掲載されるという事務手続きが残っているのみ。指定をされると組合の活動もひと段落すると思うが、さらに三線の価値を高めていく役目を担っていただきたい。
◆那覇市商工農水課 藪内
本日特に印象深かったのは、鈴木委員がお話しされていたブランディングの話で、NEC様の技術も含めて、古いものと新しいものを一緒に組み合わせて技術を継承して行けたらよい。また、後継者育成をしても、生産者が生活できない状況があるということで、こちらについても考えていかなければいけない。
◆沖縄県商工労働部ものづくり振興課 上原
県においても正式な伝統工芸品指定の報告を心待ちにしている。指定のあとは振興計画の作成がありますが、先ほど鈴木委員からもお話がありましたとおり、後継者育成終了後に定着をしない状況があるということで、定着する、できる環境の整備が必要だと感じている。
産業的な価値を高めて後継者を育成するということを三線組合と一緒に考えていきたい。
また振興計画の中には品質の維持、原材料の確保、需要の開拓に関する事項も盛り込まれておりますので、県として引き続き支援していきたい。